Letter to my first fan
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---通過途中の手紙------------ 7/31 親愛なるダディへ。 手紙なんて何年ぶりだろね?筆不精でマジごめんね。 羽ペンもインクも全然使ってなかったからカッスカスでウケるし、英語書くのも久々すぎて字ぃぐっちゃぐちゃだわ。読みにくいかもだけど、まー心こもってりゃいけっしょ。頑張って読んでください。 今日、この前受けたインタビューが載ってる雑誌を読んだんだけどさ、オレ、ダディに関係することいっぱい喋ってたんだよね。だからなんとなく、久々に手紙書こうかなーって思ったわけ。つっても報告するような話ってないんだけど……いや、一個あったわ。 8/8にさ、初めてでけーフェスでライブすんの。聴きにきてね。ダディが好きだったロックバンドも出演したことあるようなやつだよ。しかも最終日。すげーっしょ。 でもまあ当然だよね。オレ、今のバンドすげー気に入ってるし。ダディがカミサマに頼んでくれたオレのギフテッドボイスも、最近ますます魅力的になってるし?あ、もちろんギターも上手いよ。今も大事に使ってるから、安心してね。 そんなこんなでけっこーちゃんと毎日練習してんだけど、明日は休んで別のバンドのライブに行ってきまーす。ウィンドフォールズって言うの。そっちのバンドもけっこーすきなんだよね。まあ、オレらのバンドが一番だけど。 フェスでは明日のウィンドフォールズよりももっとかっけー歌、オレらがかますつもりだよ。だからダディも天国で、カミサマと一緒に見守っててね。 そんじゃ、書くのも疲れてきたから手紙終わり! ダディに神の祝福がありますように。 あんたの自慢の息子より。 (ライターを手に取る。ワックスに火を灯す。溶けた蝋を垂らして、シーリングスタンプで封をして。冷ました後は、レターケースへしまい込む。溜まった手紙達は、まとめて手ずから届けるつもりだ。いずれ、遠くない未来で開催されるだろう、アライズの海外ツアー公演の最中にでも。) ---通過後の手紙------------ 親愛なるダディへ。 前書いたのって例のミューフェス前じゃんね?久しぶり〜。やーまじで色々あったわ何から書こっかな~……あ、そうだ。あのさーダディ。オレずっと勘違いしてたっぽいね。オレって、カミサマに愛されてたわけじゃなかったらしーじゃん? まあ、勝手に祝福あれ~されてたのはマジなんだけどさあ。オレ、その理由って、母さんとばーちゃんが言ったみたいに、ダディがカミサマに頼んでくれたからだと思ってたんだよね。まさかもっとでけーカミサマへの捧げ物扱いだとか思ってなかったからさあ、知ったときはまあまあショックだったわ。だってこっちは今までダディが……カミサマが、オレのこと見守っててくれてるーって思って生きてきたわけだしね。 まあ、そんな、味方かと思ってたら実は敵だったカミサマとフェスでバチボコにやりあって、まとめて病院送りにされたわけなんだけど。 目が覚めた日の夜にさ、夢を見たんだよね。ダディが生きてた頃の、子どもの頃のオレの夢。 あの頃からオレ、歌うことが好きだった。ダディも言ってくれてたよね、來の歌声が好きだよ~って。歌うたびに褒めてくれてさ、童謡だのカントリーだのパンクだのゴスペルだの、ジャンル問わず色々リクエストされたっけ。 知らない曲を歌うのは楽しかった。ダディが飽きずに聴いてくれるのが嬉しかった。ほんとに、すげー楽しかったし、嬉しかったの。オレさ、たぶん、それだけで充分幸せだったと思う。 でも、ダディが死んじゃってさ?6歳のガキだったオレが、死とか生とか全然わかってないまま、ダディのために讃美歌歌って……あの声が聞こえて。 そっからだったよね、かっけーなーって思ってたダディのギターが、あっという間に弾けるようになったのは。歌だってそう。声変わりして低い声が出るようになっても、ガキの頃と同じソプラノは消えなくて。 その時から、違和感はあったんだよね。 これ、ホントにオレの声?って。 いや、オレの声は確かにオレの声なんだけどさ。変なカンジだなーって思ってたの。まあでも、あのときはカミサマのギフトだと思ってたから、不安、ってわけじゃなかったし。それにうまく歌えれば歌えるほど、母さんが喜んでくれたんだよね。「來はダディからの贈り物を受け取ったのね」って、嬉しそうに笑うわけ。ばーちゃんとかじーちゃんにも褒められたよ、"I'm proud of you"なんて言われてさ。 まあ別に、ふつーに嬉しかったし。母さん達がすげえ重い気持ち込めて言ってたわけじゃないとはわかってたけど。それでもなんとなく、もっと上手く、そのへんのやつよりも特別に上手くいようって、思ったりもしたんだよね。ギフテッドらしい上手さを見せつけなきゃ、みたいな………………ん?なんか改めて書くと重たくね?別にオレ、そこまで深く考えてたわけじゃないけどね。今思えばそんなカンジなときもあったな~ってくらいなんだけど……。 まあ、だからこそ、正直ショックだったよね。自分の声が、特別じゃなくなったってのは。 今までみたいな高くて綺麗な声、もう出ねえし。歌えない曲だってできちゃった。せっかくバンちゃんが作ってくれたのにね。お気に入りだったのにな、あの曲。 ……まあでも、思ったんだけどさあ。 カミサマパワーは無くなったけど、オレって別に凡人になったわけじゃないんだよね。だってオレ、元から天才だし。 カミサマの力なんかなくたって、オレの歌はダディに愛されてた。 それになにより、オレがオレの歌を愛してた。 あの頃からオレの歌は、オレにとってのロックだったんだよね。 そんなオレのロックを、カミサマの押し売りパワーで勝手に殺されてたと思うとさあ、それはそれでむかつかね?だってギフト貰ってなかったら、もっとちゃんと発声練習とかもやってただろーし?今こーやってボイトレわけわかんねえ~~~!つって、リーダーのケツ蹴ることもなかったわけじゃん? まーでも、別にあのときもらわなきゃよかった~~~なんて後悔はしてねーかな。嘆いたって過去は変わんないし、そもそも押し売り拒否れなかったし。それに、カミサマパワーのおかげで、今のバンドメンバーに出逢えてるってとこもあるし……オレはああいう風に歌えるんだってことも知れたしね。 だからこれから取り戻してくよ。出せなくなった声も、歌えなくなった歌も。だってオレ天才だもん。……あ、ちなみにこの「天才」って、天から才能をもらったヤツって意味じゃなくて、天にまで轟く才能を持ってるヤツって意味ね。明神來くんの辞書ではそうなってまーす。つまりアライズは天才集団なわけ。すごいっしょ。 だからさ、これからも見せつけてやんの。オレらのロック。 ビリビリ痺れちまうような音で轟かせて、カミサマだって殺しちまうくらいに。 ……あ、そーそー。そんな天才なオレらの復活ライブ情報なんだけど。みこっちゃん風に言うと、機は熟したってことでさ。とりま8日後のミューフェスから始まるから、今度こそ聴きに来てね。 ……いや、前の時も来てくれてたのかな。もしかして、オレらのこと見守ってくれてたりした?だったらありがと。オレ、死ぬときはもうどっかのカミサマの宮廷なんかじゃなくて、そっちに行けるみたいだから。もっぺん会えたときは、昔みたいにまた褒めてね。 はいじゃあ書き疲れたしこれで終わり〜。 今後も愉快な仲間たちと一緒に、ジジイになるまで歌ってくからさ。 これからもずっとファンでいてね。愛してるよ。 ダディにアライズのロックが届きますように。 あんたの自慢の息子より。